「僕たちはひとつの光」に習う理想的な転調
今更感あるけど書いておく。
転調で大事なのは、転調した後に再び"元の調へ戻る"こと。戻ってくるまでが転調である。
「僕たちはひとつの光」はこの"元の調へ戻る"までの流れがとても美しいので詳しく見ていきたいと思う。
僕たちはひとつの光 / μ's
曲の構成
最初にこの曲の構成を確認する。
イントロ → A → A' → B → サビ → 間奏1 → C → C' → サビ → 間奏2 → サビ → A
Dmaj Fmaj Abmaj Bmaj Abmaj Amaj Dmaj
このように、Dmajから始まり複数回の転調を挟んだ後に再度Dmajへ戻って来ている。
もう一つ注目したいのは最後がAメロで終わっていること。ソナタ形式の再現部のごとく曲の最初と最後で同じ調の同じメロディーが使われている。
転調の仕方
次は個々の転調の方法。
この曲では短3度、半音、下属調の3種類の転調が使われている。
Dmaj → Fmaj (短3度)
転調の予告コードとしてBb→Cが使われている。これはDmajだとbⅥ→bⅦ、FmajだとⅣ→Ⅴ。A'の最初のコードがF(Ⅰ)なのでⅤ→Ⅰのドミナントモーションで転調している。よくある手法。
Fmaj → Abmaj (短3度)
Bの最後でFsus4を解決している。これはドミナントやセカンダリードミナントで次の調へ繋げるパターンではなく、セクションの最後をトニックで終えて次のセクションへ移る形。
Abmaj → Bmaj (短3度)
転調の予告コードとしてEbm7→Ab7が使われている。これはAbmajだとⅤm7→Ⅰ7、BmajだとⅢm7→Ⅵ7。C'の最初のコードがEM7(ⅣM7)なのでⅥ7→ⅣM7の進行で転調している。本来ならC#m(BmajのⅡm)へ進むところをⅣで代用している形。
Bmaj → Abmaj (短3度)
C'の最後でCsus4を解決している。これはAbmajだとⅢsus4→Ⅲ。本来ならこの次はFm(AbmajのⅥm)に進みそうなところだがAb(Ⅰ)へ進んでいる。つまりこれはⅢ→Ⅰの禁則進行。禁則といってもポップスでは時々使われる。
Abmaj → Amaj (半音)
転調の予告コードとしてD/E→Eが使われている。これはAmajだとⅣ/Ⅴ→Ⅴ。その前のDb/Ebから半音で繋がり、なおかつサビの最初のA(Ⅰ)に向かってⅤ→Ⅰのドミナントモーションで転調している。
Amaj → Dmaj (下属調)
転調の予告コードとしてEm7/Aが使われている。これはAmajだとⅤm7/Ⅰ、DmajだとⅡm7/Ⅴ。Aの最初のコードがD(Ⅰ)なのでⅡm7/Ⅴ→Ⅰの進行で転調している。これはよく使われる部分転調"Ⅴm→Ⅰ→Ⅳ"の応用。Ⅴm→ⅠがひとまとめになってⅤm/Ⅰになり、そのままⅣの調(ここではDmaj)へ転調している。
B→サビは+3度、C'→サビは-3度と曲の前半と後半でサビへのアプローチを変えている。そしてラスサビで定番の半音上昇を行い、近親調のDmajへ回帰という流れ。
この曲の魅力
結局のところこの曲の魅力は、
"各所で転調を行い曲に彩りを加えつつも最後には元の調へ戻る"
こと。これが素晴らしい。
中でも最後のAmajからDmajへの下属調転調が良い。ラスサビで半音上昇する曲は多くあるが大体の場合そのまま戻らずに曲を終えてしまう。しかしこの曲では半音上昇後も再度転調しており、さらにその転調先が半音上昇する直前の調ではなく曲開始時の調なのだ。まるでここに至るまでの転調も全て最後にDmajへ回帰するための布石だったかのよう。
このような最初から最後まで計算され尽くした曲はあたかもパズルのようで数学的な美しささえ感じる。それがこの曲の魅力である。
最後に
余談だが僕たちはひとつの光のイントロはスノハレ進行。初めて気づいた時は「EFFYお前!!!やりやがったな!!!神!!!!!」ってなった。